大判例

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東京地方裁判所 昭和60年(特わ)3725号 判決

本店所在地

東京都品川区南品川六丁目一二番三号

富士コンサルタンツ株式会社

(右代表者代表取締役 石川豊子)

本籍及び住居

横浜市緑区美しが丘二丁目三一番地三

会社役員

石川清

大正九年四月一〇日生

右の者らに対する各法人税違反被告事件について、当裁判所は、検察官中原恒彦出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人富士コンサツタンツ株式会社を罰金三〇〇〇万円に、被告人石川清を懲役一年二月にそれぞれ処する。

被告人石川清に対し、この裁判確定日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人富士コンサツタンツ株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都品川区南品川六丁目一二番三号に本店を置き、土木設計、調査及び測量等を目的とする資本金三〇〇〇万円の株式会社、被告人石川清(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役、として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ

第一  昭和五五年八月一日から同五六年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八四一八万四七五四円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五六年九月三〇日、東京都港区高輪三丁目一三番二二号所在の所轄品川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三九二三万五六七三円でこれに対する法人税額が一三九〇万八三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六一年押第二一八号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三二七八万三〇〇円と右申告税額との差額一八八七万二〇〇〇円(別紙(四)税額計算書の(1)参照)を免れ

第二  昭和五六年八月一日から同五七年七月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億九八六八万九九二三円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年九月三〇日、前記品川税務署において、同税務署長に対し、その所得金碩が五四七七万六四六三円でこれに対する法人税額が一九六七万三二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告所(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額八〇一一万三〇〇円と右申告税額との差額六〇四三万七一〇〇円(別紙(四)税額計算書の(2)参照)を免れ

第三  昭和五七年八月一日から同五八年七月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億三〇〇万円四九二円あった(別紙(三)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五八年九月二八日、前記品川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三四〇五万七五八四円でこれに対する法人税額が一〇五八万五三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三九五三万一九〇〇円と右申告税額との差額二八九四万六六〇〇円(別紙(四)税額計算書の(3)参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人石川清の当公判廷における供述

一  被告人石川清の検察官に対する供述調書七通

一  登記官作成の商業登記簿謄本及び閉鎖商業登記簿謄本三通

一  廣田彰(五通)、篠崎義文及び石川豊子の検察官に対する各供述調査書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  完成業務収入調査書

2  材料費調査書

3  トレース印刷費調査書

4  給料調査書

5  受取利息調査書

6  償還益調査書

判示第一及び第二の事実につき

一  収税官吏作成の設計等委託費調査書

判示第一の事実につき

一  押収してある法人税碓定申告書(昭和五六年七月期)一袋(昭和六一年押第二一八号の1)

判示第二及び第三の事実につき

一  収税官吏作成の広告宣伝費調査書

判示第二の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書(昭和五年七月期)一袋(同押号の2)

判示第三の事実につき

一  押収してある法人税確定申告書(昭和五八年七月期)一袋(同押号の3)

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  備品レンタル料調査書

2  旅費交通費調査書

3  修繕維持費調査書

4  為替差損調査書

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社

判示第一ないし第三の各事実につき、法人税法一六条四条一項、一五九条一、二項

2  被告人

判示第一ないし第三の各所為につき、法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人につき、いずれも懲役刑を選択

三  合併罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件、土木設計、調査及び測量等を木手とする被告会社の代表取締役であった被告人石川が、被告会社の取引先の多くが国鉄であったことから、国鉄の赤字経営及び将来の民営化という流れの中で、近い将来において国鉄関係からの受注が大幅に減少し、被告会社が経営困難に陥るおそれがあると危惧し、裏資金の蓄財を図ったもので、そのために売上を除外したり、架空の経費を計上するなどの方法により、三事業年度の合計で一億八二五万円余の被告会社の法人税を免れたというものであって、そのほ脱額が高額であるうえ、ほ脱率も昭和五六年七月期が約五七パーセント、同五七年七月期が約七五パーセント、同五八年七月期が約七三パーセントいずれも高率であり、ほ脱の具体的方法も、その主たる手段である売上除外においては、被告人石川が毎期の除外額の総額を決め、経理担当者に指示して除外すべき個別の請負契約を適宜選定させたうえ、その控除した分の請負収入を一切公表帳簿に記載せず、そして、除外した分の売上代金については被告会社名義の簿外の預金口座に入金するなどした後、更に、被告人や妻などの個人名義あるいは偽名で債券を購入し又は定期預金にするなどして所得を隠ぺいしていたもので、その手口は巧妙であり、全体としての犯情も悪質である。更に、被告会社においては、被告人石川の指示により本件の数年前から売上除外や架空経費の計上等が行われてきたことが窺われることとも併せ考慮すると、被告人石川の刑事責任は重いといわなければならない。

しかしながら他方、本件のほ脱の一方法となっている架空賞与の計上は、会計処理上の拙劣さから生じたもので、架空計上分は決算期の経過した年末には簿外賞与として全額支給されており、ことさらに被告会社の裏資産ないし被告人石川の個人資産としようといたものではないと認められること、被告会社は本件の三事業年度だけでなく、昭和五四年七月期以後の法人税及び地方税についても修正申告のうえ、いずれも完納したこと、被告人石川は本件を反省し、今後の納税に遺憾がないようにすることを誓っていること、同被告人はこれまで真面目に働き、前科前歴がないこと等、被告人石川に有利な事情も認められるので、これらを斟酌して、その刑の執行を猶予するのが相当であると判断した次第である。

(求刑 被告会社につき罰金三五〇〇万円、被告人石川につき懲役一年二月)

よって、注文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木浩美)

別紙(一) 修正損益計算書

富士コンサルタンツ株式会社

自 昭和55年8月1日

至 昭和56年7月31日

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

富士コンサルタンツ株式会社

自 昭和56年8月1日

至 昭和57年7月31日

〈省略〉

別紙(三) 修正損益計算書

富士コンサルタンツ株式会社

自 昭和57年8月1日

至 昭和58年7月31日

〈省略〉

別紙(四) 税額計算書(単位:円)

会社名 富士コンサルタンツ株式会社

(1) 自 昭和55年8月1日

至 昭和56年7月31日

〈省略〉

(2) 自 昭和56年8月1日

至 昭和57年7月31日

〈省略〉

税額計算書(単位:円)

会社名 富士コンサルタンツ株式会社

(3) 自 昭和57年8月1日

至 昭和58年7月31日

〈省略〉

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